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大阪家庭裁判所 昭和52年(家)2370号 審判 1977年11月01日

本籍 東京都

住所 大阪市

申立人 山形夏子(仮名)

主文

東京都○○区役所備付けの申立人の戸籍(筆頭者山形耕一)のうち、申立人の身分事項欄の次の記載を消除することを許可する。

昭和四八年一二月二七日国籍フイリピン国サンジエーレ・ラシンジヨル(西暦一九四五年六月二四日生)とタイ国の方式により婚姻昭和四九年八月一七日婚姻証明書提出同年九月三日大阪市○○区長から送付

理由

申立人は、主文同旨の審判を求め、申立ての実情を次のとおり述べた。

私は、一九七三年一二月二七日にフイリピン国籍サンジユーレ・ラシンジヨルとバンコツクの警察で結婚しました。そのとき私は妊娠三か月だつたので、夫(ギター奏者兼歌手)のヨーロツパ演奏旅行に同行しないで、日本にお産のため帰りました。一九七四年七月二二日大阪市○○区の○○病院で男児出産、私はタイ国の結婚証明書を持つて○○区役所へ出産届けに行きました。そしてフイリピン籍の外人登録証をもらいました。

私はヨーロツパの夫のところに行こうと思つて神戸のフイリピン領事館に子供ウイルバート山形ラシンジヨルのパスポートをもらいに行つたところ、夫のパスポートがないと発行できないことが分り、夫に手紙を出しましたが、パスポートは送れないということで、夫の出生証明書を送つてくれました。そのとき夫は以前タイ女性ナロム・ラシンジヨルとバンコツクの○○カソリツク教会で結婚して、その日にタイのフィリピン大使館に婚姻届けをしていることが分りました。

今年一九七七年七月に夫の母がガンのためカリフオルニアの病院で死亡、続いて父が八月に肝臓病のためフイリピンで死亡しました。夫の先妻の子供ウィン・ラシンジヨル(夫の母がフイリピンで養育していた)を夫が引き取るため、夫と先妻との話し合いの結果、二人はカソリツクで結婚しているため離婚できないことが判明したと、夫から手紙を七月にもらい、夫は私と二重結婚していることが初めて分りました。子供の国籍問題で法務局に相談したところ、家裁へ申立てをするように言われましたので、本申立てに来ました。

申立ての実情は以上のとおりであるが、当裁判所の調査の結果によれば、上記諸事実のうち、事情にわたる部分を除き、重要な事実はこれを認めることができる。

法例第一三条第一項本文によれば、婚姻成立の要件は各当事者につきその本国法によつて定めるべきところ、申立人の本国法である日本法によれば重婚における後婚は取り消し得べき婚姻であり、申立人と重ねて婚姻した男の本国法フイリピン法によれば上記婚姻は無効であるが、そのような婚姻は結局無効になるものと考えられる。したがつて、主文記載の申立人の戸籍の婚姻事項は、無効な身分行為についてなされた戸籍の記載であるから、戸籍法第一一四条により消除さるべきものである。なお、上記婚姻はタイ国の方式によつて婚姻した時に成立しているのであつて(法例第一三条第一項ただし書)、日本で婚姻証明書を提出した時に成立したものではないが、これもまた戸籍法第一一四条の「届出によつて効力を生ずべき行為」ということができる。さらにまた、本件のような事案においては、婚姻無効の確定判決または家事審判法第二三条の審判によらないで、戸籍法第一一四条により戸籍の訂正をすることができるものと解する。

よつて主文のとおり審判する。

(家事審判官 堺和之)

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